鎌倉の森にいこうプロジェクト始動『広町緑地で遊ぶ』
文・写真 ネイチャーライター&フォトグラファー 村田江里子
車いすから「ドングリ見つけた!」広町の森でネイチャーゲーム
カサコソ落ち葉を踏みしめて、ゆっくりと進む車いす。
「ドングリ…!」「ほんとだ、いっぱい…!」「絵になるね」
秋色に染まる鎌倉広町緑地で、11月28日、障がいのある皆さんが、ネイチャーゲームを楽しみました。
このイベントは、さまざまな団体や人が関わりながら、鎌倉の森の未来を一緒に考えていこうと立ち上げられた新プロジェクト「森へ行こう!」の一環。発起人の地球の楽校主宰・長谷川孝一さんの呼びかけで、ネイチャーゲームなどを開催するネイチャーシェアリング協会や、移動サービス協議会、鎌倉広町緑地パートナーズの方々などにより開催されました。



横浜から、鎌倉広町緑地を訪れるまでの移動に、約2時間。駅では駅員さんに板をもってきていただいて電車に乗り、普通の人の3倍の時間をかけていらっしゃいます。車いすで入れるトイレの場所や通りやすい道を確認するなど、スタッフの皆さんは、丁寧な下見や計画、準備を重ねてこられました。
そして、いよいよ当日。西鎌倉駅から、車いすを押す一行が広町の森へ向かい、森へ入ります。
「わあ…!広い森ですね。」
まずはネイチャービンゴ。「足跡」「黄色い花」など、お題が書かれたビンゴ用紙を手に、スタートです。「きれいなお花!」「これはチクチクだね」「アライグマの足跡、見つけた…!」など、自然の素材を見つけるごとに、用紙に〇をつけて…一列揃うと、「ビンゴ!」「面白かった…!」介助の方と、目を合わせてにっこり。


絵画の額縁のような白い四角い枠を手に風景や足元の野の花に当てる、芸術家気分に。「ススキがいいね」「あ、足元にもお花畑…!」「ドングリいっぱいだ」と、思い思いに秋の谷戸の風景を切り取っていきます。


目をつぶって辺りの音を数えると、キーヨキーヨとヒヨドリの声、チャラチャラと流れるせせらぎや、リー、リーと虫の音も。「こんなにいろんな音があるなんて、気づかなかったですね…!」
夢中でワクワク、自然と遊び、童心に帰るひととき。いつしか五感がひらき、研ぎ澄まされて、いつもなら通り過ぎてしまうような何気ない自然の中に、たくさんの気づきをいただきます。

車いすから手を伸ばし、匂いをかぎ、耳をすませて…キラリと輝く皆さんの瞳が、胸に響きます。
「発語が困難な方も、私たちと考えていることは一緒。とても、感性豊かな方々なんです。」と、横浜移動サービス協会の田中さんはおっしゃいます。
森と人を想うさまざまな団体、そして人々の想いと力が集まって実現した、このかけがえのない、大切な時間。谷戸の豊かな秋の自然とふれあい、いきいきと輝く皆さんの笑顔、それを眺めるスタッフの方々の慈しみに満ちたあたたかいまなざしが、この会の深い意義を物語ります。
こんなすてきな機会が、またこれからも続いて、その輪が広がっていきますように。皆さんの笑顔の中に、新たな未来への希望の道が見えた、秋の1日でした。


「障がい者本人が楽しむと、家族も本当にいい顔になるんですよね。これを機に、いろんな障がい者の人を、ここに連れてきたい。これを機に、のちのち自分でも楽しめるようになってもらえたら…」と、移動サービス協議会の田中さん。
「楽しそう!いろんな人が集まるようになるといいですね…!」とネイチャーシェアリング協会の三好さんの笑顔がほころびます。
豊かな森が残る鎌倉。私たちは、きれいな空気や、しっとりとした緑に包まれた景観、四季の自然を感じ心豊かに過ごせる場など、さまざまな恩恵をいただいて暮らしています。しかし、近代化が進む中、私たちが身近な自然と実際にふれあう機会は、減ってしまっているのが現状。人の目が届かないままの状態では、やがて森は荒れてしまい、本来の地域の自然生態系の姿も、失われてしまいます。
地域の豊かな自然環境を将来世代に守り伝えていくには、私たち市民が、森に興味関心をもち、理解し、向き合うことから。
さまざまな方々、障がいのある方も含めて、多くの方に森に関心をもっていただくことで、かけがえのない鎌倉の森を未来に引き継ぐいしづえとしたい…持続可能な「森と人」の地域文化の開花に向けて、エントランスホール・入口のような役割をもつのが、この市民連携による活動「森へ行こう!」プロジェクトです。
鎌倉市の森は、昨年秋の台風で大きな被害を受けたこともあり、森への人々の想いが、高まりつつあります。NPOセンターでは昨年、森をテーマにした市民活動団体の懇話会が開かれ、今年秋にも、市民活動フェスティバルで森やSDGsをテーマにしたディスカッションが行われました。鎌倉市緑の基本計画も改定の時期に当たり、森と人との新たな関わりの潮流が生まれてきています。
「森へ行こう!」プロジェクト発起人である、地球の楽校主宰・長谷川孝一さんは、団体・サークル・個人・行政が互いに納得できるアクションプランを生み出し、連携して森に集うイベントをデザインし、四季折々に実施していきたい、と、ワクワクするようなダイナミックな構想の実現に向けて、団体と行政、人をつなげる動きを始動されています。

今回のイベントで連携しているのは、公益財団法人 日本シェアリングネイチャー協会、「Bamboo Kamakura~鎌倉の森を残し伝える会」、鎌倉市市民活動センター、鎌倉広町緑地指定管理者「鎌倉広町パートナーズ」、「県立特別支援学校教諭星野英俊先生&養護学校卒業生のパフォーマンスグループ「はっぱオールスターズ」の皆さん、認定NPO法人横浜移動サービス協議会…の方々。
鎌倉広町緑地の指定管理者である鎌倉広町パートナーズの望月さんによると、鎌倉広町緑地は都市公園として、利用者にいろいろなサービスを提供する役割をもつといいます。これまでも、鎌倉広町緑地では、県のトラスト財団と連携し、園内を歩いてグリーンリースづくりをしたり、草をつんで野草茶を飲む会などが催されてきました。従来、学校の子どもたちが訪れ緑地を楽しむ活動が多かったのですが、大人も楽しむという発想もあれば…と考えていたといいます。
「畑…!」「ドングリいっぱいだ」と、思いおもいに秋の谷戸の風景を切り取っていきます。
「こうして、行政や市民、団体が連携し、障がいのある方が参加できるプログラムをはじめ、どんな人も森へ訪れるきっかけづくりをして、どんどん、面白いことをやっていきたい…今までは団体も個人も行政も、それぞれ別に動いてきたけれど、森の担い手の後継者不足も課題となる中、この新たな動きで、良いきっかけ作りをしたいんです」と長谷川さんは語ります。
「障がいある人もない人も集まって、いろいろな人が森のあり方を、管理の仕方も含めビジョンをもって、みんなの総意で『今』大切な取り組みを進めていきたい」…と、空を見据えておっしゃいます。
春夏秋冬…障がいのある方の自然体験や、親子でそうめん流し、タケノコ間伐に尾根道ハイキングなど…森と人とをつなぐワクワクのイベントが、これから次々と開催されていく予定…!
生きものたちの息吹あふれる森を未来へ…これから、さまざまな人や団体、行政が、一緒に楽しみながら、かけがえない鎌倉の森を、未来へ引き継ぐイベントデザイン・プロジェクトが、始まります!どうぞお楽しみに、そして、あなたも楽しい森の輪に、どうぞご一緒くださいね。
この事業は、コスモ石油エコカード基金の助成により実施されています。